フルーツの話題

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フルーツをめぐる物語

長い歴史を人類と共に歩み続けてきたフルーツは、時にさまざまのドラマを生み出し、多くの物語に織り込まれてきました。ここでは、小説や歌、映画などで見ることができる、フルーツをめぐるドラマの数々を紹介していきます。

DVD

第一回『サイダーハウス・ルール』

監督:ラッセ・ハルストレム
出演:トビー・マグワイア、マイケル・ケイン、シャーリーズ・セロン他
2000年米
DVD販売元:アスミック

作品紹介

アカデミー賞2部門を獲得したヒューマン・ドラマ。主演の『スパイダーマン』シリーズのトビー・マグワイア、ラーチ医師役でアカデミー賞助演賞を受賞したマイケル・ケイン他、名優たちの演技が光る作品です。

孤児院で生まれたホーマー・ウェルズは、院長であるラーチ医師や看護婦たちに、息子のように愛情をかけて育てられた青年。しかしラーチ医師の助手をつとめるうち、彼はその仕事に強い反感を覚えるようになります。
ラーチ医師は当時のアメリカでは違法とされていた妊娠中絶手術をひそかに行っていました。不幸な母親たちを大勢見続けたラーチ医師が、あえて選んだ「人のために役立つ仕事」だったのです。
ホーマーにとって、孤児院は家族のようなもの。親がわりのラーチ医師や子どもたちみんなを愛してはいましたが、仕事への不満と若さから来る情熱にかられ、衝動的に生まれた家を後にします。

photo ホーマーの落ち着いた先は岬の村にあるリンゴ園。どこにでもある普通の農園ですが、孤児院から出たことのない彼には、見るもの聞くもの全部が初めての体験。リンゴをもぐ仕事も面白く、熱中します。
しかし、そのリンゴ園は小さな世界のように守られていた孤児院とは違い、複雑な世間の縮図でした。彼はその中で始めての恋に落ち、初めての苦悩を覚え、そして初めて、自分がどんな人間なのか考え抜くことになります。

タイトルの「サイダーハウス・ルール」の「サイダーハウス」とは、ここでは「ピッカー」と呼ばれる、リンゴを収穫する季節労働者たちが泊まる宿泊所のことです。
英語の「サイダー」は、日本で言うサイダーではなく、リンゴジュース、またはリンゴ酒のことをさします。ホーマーのいた農園では何種類ものリンゴを作っていて、リンゴジュースやリンゴ酢の製造もしていました。その製造にたずさわるのもピッカーたちです。それで「サイダーハウス」の名がついたのでしょう。
生まれつきカンのいいホーマーは、リンゴのこともよく覚えます。孤児院には、酸味が強くてパイ用に使う青リンゴと、生食用の赤いリンゴの箱を送りました。リンゴをかじってみたラーチ医師は、甘くて歯ごたえがあると誉め、ホーマーはリンゴの才能があると認めずにはおれなかったほどです。
この映画に出てくるリンゴはみな、手にすっぽり入るほどの大きさ。欧米で作るリンゴは、いまの日本で見る一般的なリンゴよりも、少し小さめが主流です。リンゴを生で食べる時は丸かじりしている人が多いのは、そのせいでしょうか。 欧米では特に歯ごたえのよさがリンゴのおいしさのひとつに数えられているそうです。もぎたてのリンゴは特に歯ごたえが強いもの。映画でも「カリッ」という小気味いい音をたててリンゴをかじるシーンが出てきて、いかにもおいしそうです。

岬にあるリンゴ園で、ホーマーはさまざまな出来事に巻き込まれます。それまで自分とは無縁と感じていたような背徳行為にも。しかし、美しいリンゴ園の情景をバックにした、そうした人々の営みは、なぜかそんなに醜く恐ろしくは見えません。スキャンダラスなところもあるストーリーは、客観的でありながら、どこか温かみも感じられる視点で、淡々と進んでいきます。
これは原作者であり、映画脚本も自ら手がけたジョン・アーヴィングが、リンゴ園を舞台の背景に選んだことと無関係ではないかもしれません。
リンゴはどこか寛容な存在で、すべてを見守るようなイメージがあります。事実、フルーツが人間のドラマに投入されるとき、それはリンゴであることが圧倒的に多いのです。それがリンゴの持つ、懐かしみのある丸さから来るのか、安定感のある固さから来るのか、手軽でおいしく栄養豊富という実用性から来るのか、さだかではありません。
リンゴは、アダムとイブの逸話で知られるように神の園にあったと伝えられる高貴で神秘的なフルーツでありながら、最も庶民的に愛されているフルーツでもあるという稀有な存在です。そんな極端な二面性もまた、人々に特別な愛情を抱かせるのかもしれません。

ホーマーがリンゴ園にいた時期は、決して長くありませんでした。でも、彼はその時期の間に、重い責任を負うことに反発して逃げ出した青年から、自分の行く道を自ら決意した一人前の大人へと生まれ変わります。
リンゴは何にも言わないけれど、そんな彼の成長を、じっと見守っていたのではないでしょうか。

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